妻は映画のタダ券を持っていた。
懸賞に応募して当たったものである。
しかし、忙しくてなかなか見に行くことが出来ない。
そうこうしている内に、一ヶ月もしないうちに上映が打ち切られはじめた。
不人気映画のようだ。
焦った妻は、必死で上映中の映画館を探した。
「別に無理して、見にいかんでもいいんやないか?」
という私の声には決して耳を貸さない。
もったいない、というのである。
そして、某月某日決行。
交通費を浮かすため、足はチャリである。
天候はあいにくの雨だったが、妻には何の影響も無い。
カッパを着ていった。
距離にして5キロ以上あるのだが。
そして、行き先はこの辺でも有数の繁華街だったのだが。
カッパを着たおばさんが、ビル街をママチャリで走る、という構図である。
ちなみに、映画の感想を妻に聞いても何も返ってこなかった。
小さな映画館だったのだが、観客は妻を含めて4人だけだったらしい。
「つまらん映画やけん、当たったんやないと?」
と私が言うと、
「それを言わんで」
と妻は言った。
自分でもそう思っているようだった。
しかし、さすがにこの行動、振り返ってみて自分でもあきれたらしい(笑)。
タダ券を決して無駄にしない主婦の執念の行動であった。